学歴社会
※本用語の解説は1992年に作成されたものです。
人々が将来得る社会的地位(威信,権力,富)が,過去に受けた教育によって規定される度合いの強い社会。大学,高校,中学など,どの程度の水準の教育を受けたかが聞題にされるものを「タテの学歴社会」,更に同じ教育段階であれば,「一流校」や「二流校」など,どれだけ威信の高い学校を卒業したかが基準にされるものを「ヨコの学歴社会」又は「学校歴社会」と呼ぶ。
学歴社会,特に「タテの学歴社会」は,各職業で必要とされる知識の水準が学校の教育内容と対応することによってもたらされる面がある。しかし,職業団体や会社などの社会集団が,自身の威信を上昇させる手段として,より高い学歴を資格化,優遇することによって生じる面もあるとされる。
一般に「学歴社会」に併置される概念としては,「身分社会」と「実力社会」がある。身分社会とは,家柄,身分,両親の財産といった,本来個人の責任に属さない生得的な基準によって,個人の社会的地位が左右される社会である。実力社会とは,何ができるかといった,個人の才能,努カに基づく業績によって,個人の社会的地位が決定付けられる社会である。一般に近代化が進展するとともに,社会は身分社会から実力社会へと移行していくと考えられている。こうした移行の観点から学歴社会をみた場合,個人が教育を修了する時点までは,学校制度内で個人の能力,努力による自由な競争が展開され,その程度に応じて一定の学歴が与えられるという意味で,学歴社会は明らかに身分社会とは異なる。一方,学歴はその取得が修了した時点において,以後変更不可能な個人の属性に転化し,その後の個人の人生を左右することになる。このような意味で,学歴社会は,生得的な身分社会に対して,社会的な身分社会と呼ぶこともできる。
ただし,身分社会,実力社会とともに,学歴社会といった概念も理念的なものである。日本がどの程度学歴社会に近いかについては,いまだ様々な議論がある。学歴社会では,多くの人々がより良い学歴を求めて学校に殺到する傾向が強い。これに伴う受験競争の激化等の状況から,日本は学歴社会の最先進国と指摘する人もいるが,学歴社会は近代社会(近代化,産業化)に伴う固有の現象であり,学歴社会の病理は程度の差こそあれ,世界各国で問題となっている。